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相手の文化を尊重する姿勢が新市場を切り開く
電子書籍市場を勝ち抜くため自社開発システムに注力
(株)スマートゲート 代表取締役 後藤康宏氏

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クリエイティブDX事業やコンテンツマネジメント事業を展開し、創業以来15期連続で成長を続けるスマートゲート(東京・豊島)の代表取締役・後藤康宏氏に取材を実施。出版業界のデジタルシフトをいち早く捉えた創業の経緯や、独自の「クリエイティブテック」というビジョン、そして後藤社長が考える、人生の転換点や挑戦の象徴としての「ハレの日」についてお話を伺いました。
(聞き手:ハレノヒハレ 代表取締役 稲葉晴一 編集:内田勝治)

4社で「広告・制作・テクノロジー」のスキルを磨き2011年に起業

まずは、現在の事業についてお聞かせください。

後藤康宏氏(以下、後藤氏):弊社は現在、二つの大きな柱で事業を展開しています。一つ目は「クリエイティブDX事業」。これは主に法人のお客様向けに、アナログな情報をデジタル資産へと変換し、最適化するサービスです。出版物の電子書籍化はもちろん、近年急速に市場が拡大しているスマートフォン特化型フルカラーコミック「Webtoon(ウェブトゥーン)」への変換や、紙の書籍を音声で楽しむオーディオブックの制作なども手掛けています。また、エンタメ領域に限らず、医療機関のカルテや建設業界の設計図、企業の契約書といった、いわゆる「機密性の高い紙文書」の電子化サービスも提供しています。
二つ目は「コンテンツマネジメント事業」です。こちらはBtoC、つまり一般の読者の方々に直接コンテンツを届ける事業です。自社で電子書籍や電子コミック、オーディオブックを出版・配信し、コンテンツの価値を最大化する役割を担っています。

この領域で起業されたのにはどのような背景があったのでしょうか?

後藤氏:私の原体験は、大学卒業後に最初に入社したCD・DVDのプレス会社にあります。当時はまだガラケーでコミックを見る文化が始まったばかりの頃でした。ある時、お取引先の出版社の社長様から「デジタルの波が来ているのは分かるが、どう対応していいか全く分からない」という切実な悩みを聞いたんです。その会社には素晴らしい作品がたくさんあるのに、デジタルの知識がないというだけで、それらが次世代に引き継がれず埋もれてしまう。そんな状況を目の当たりにし、「クリエイターが心血を注いで作った作品を、テクノロジーの力で世に広めるお手伝いをしたい」と強く思うようになりました。

そこからすぐに起業されたのですか?

後藤氏:いえ、当時はまだ自分に「届ける力」が足りないと感じていました。そこで、モバイル広告の代理店に転職し、デジタルを使った集客方法を学びました。しかし、デジタルだけでも不十分だと思い、今度は新聞やテレビを扱うリアルな広告代理店に移り、マスメディアとデジタルの掛け合わせを研究しました。その後、元上司に誘われてソーシャルゲームの会社に創業メンバーとして加わり、コンテンツ制作の最前線に身を置きました。広告・制作・テクノロジー、この3つが自分の中で一気につながったと感じた2011年、ようやく1人で会社を設立したのです。

Amazon Kindle上陸が転機「これにかけるしかない」

創業当時は2011年。東日本大震災の直後ですね。

後藤氏:7月8日に登記しました。不安がなかったわけではありませんが、それ以上に「自分のやりたいことが実現できる」というワクワク感が勝っていました。しかし、最初の2年間は本当に苦しかった。当初はiPhoneアプリでのコンテンツ配信を手掛けましたが、競合があまりに多く、資金繰りに窮する日々でした。そんな中、転機が訪れます。2013年、米アマゾン・ドット・コムが手がける電子書籍サービス「Amazon Kindle」の日本向けサービスが開始されました。私は「これにかけるしかない」と直感しました。

市場がまだ存在しない時期に、そこへ舵を切ったのですね。

後藤氏:それまでの電子書籍はガラケーでコミックを見るか、スマホでPDFを表示するような不完全なものが多かったのですが、Kindleの登場で「スマホで読みやすい実用書やコミック」の市場が本格的に立ち上がると確信しました。「Amazon Best of 2013」で年間トップ10入りを果たしましたが、それでも一番売れた月で売り上げは120~130万円程度。市場の立ち上がりは想像以上に緩やかで、厳しい時期を過ごしました。

その苦境をどう打破されたのでしょうか?

後藤氏:当時は他社も電子書籍化を始めていましたが、そのほとんどが「手作業」でした。紙のデータを一字一句拾い上げ、手動でコードを打っていく。これではコストが見合わず、利益が出ません。そこで私たちは、もともとアプリ開発をやっていた強みを生かし、電子書籍への変換を効率化するシステムを自社開発したのです。このシステムがあったからこそ、大手出版社様からの大量の受託案件を高品質かつ低コストで引き受けることができ、会社を一気に成長軌道に乗せることができました。受託制作で会社を回し、その利益で自社コンテンツを育てる。この両輪が回り始めたのが大きな転機でした。

「渋谷のベンチャーはなくなる」神保町移転でつかんだ出版界の信頼

保守的と言われる出版業界の信頼をどう勝ち取ったのですか?

後藤氏:実は、拠点の場所が大きな役割を果たしました。創業は渋谷でしたが、ある出版社の方から「渋谷のベンチャー会社なんてすぐなくなるよね」と冷ややかに言われたことがあったんです(笑)。当時はショックでしたが、裏を返せば、彼らはそれだけ自分たちの文化を大切にし、長く付き合える相手を探しているということです。そこで、自分たちも出版業界の一員であることを証明するために、本の街・神保町へ移転しました。

神保町へ移転して反応は変わりましたか?

後藤氏:劇的に変わりましたね。神保町にオフィスを構え、毎日テレアポをして顔を出す。すると「ああ、同じ出版業界だね」という空気になり、ハードルが一気に下がりました。大手の出版社様から直接お仕事をいただいたり、印刷会社様経由で他の出版社様をご紹介いただいたりと、人脈が数珠つなぎに広がっていきました。相手の文化を尊重し、その懐に飛び込むことの大切さを学びましたね。

現在の拠点は池袋ですが、ここにもこだわりがあるのでしょうか?

後藤氏:池袋は今や「オタクの聖地」であり、コンテンツ文化の集積地です。弊社の社員の多くはアニメや漫画、小説が大好きで、昼休みにアニメイトへ行って刺激を受けてくるようなメンバーもいます。そんなクリエイティブな人間たちが、最新のトレンドを肌で感じながら仕事ができる。この「地の利」は、弊社のクリエイティブ力を維持する上で欠かせない要素になっています。渋谷、神保町を経て、自分たちの本質に最も近い池袋にたどり着いたという感覚です。

クリエイティブテックが拓く未来…ペーパーレス化で人手不足を解消

「クリエイティブテック」という言葉を掲げていますが、その真意を教えてください。

後藤氏:クリエイティブ(創造性)とテクノロジー(技術)の掛け合わせです。私たちの使命は、テクノロジーを使って、クリエイターが「創造することそのもの」に集中できる環境を作ることです。例えば、面倒なフォーマット変換や管理、配信の手続きなどを私たちがテクノロジーで自動化・効率化すれば、クリエイターはもっと多くの素晴らしい作品を生み出す時間に充てられるはずです。

その技術は出版以外の業界でも応用されているのですね。

後藤氏:その通りです。今、私たちが注力しているのは、あらゆる業界における「情報の流動性」を高めることです。例えば、建設業界では今でも膨大な量の紙の設計図が使われています。これを電子化し、タブレット一つで現場で共有できるようにする。医療業界では、過去の膨大なカルテをデジタル化し、検索可能にする。これらは単に「便利」であることを超えて、人手不足に悩む日本の産業界における「業務効率化の切り札」になります。少ない人数でも質の高いサービスを維持するためには、情報のデジタル化が不可欠なんです。

海外展開についてはどのようにお考えでしょうか?

後藤氏:日本のコンテンツ、特に漫画やアニメは世界中で愛されています。海外の出版社から「日本の作品を自国で展開したい」という相談をいただくことも増えています。私たちは、日本の良質なコンテンツを世界標準のデジタル形式で届ける「架け橋」としての役割を、今後さらに強めていきたいと考えています。まだ売り上げとしては小さいですが、積極的にチャレンジしていく領域です。

多様な感性が混ざり合う「化学反応」が生む新たなサービス

現在、従業員数は約70名にまで増えたそうですね。

後藤氏:創業当時は1人でしたが、今では多様なバックグラウンドを持つ仲間が集まっています。人数が増えることで、社内では常に新しい「化学反応」が起きています。例えば、あるメンバーの「もっとこういう見せ方ができるのではないか」という提案から、新しいデジタルカタログの形式が生まれたり、オーディオブックのナレーション選定に独自の工夫が加わったりしたこともあります。一人の頭脳では限界があることも、多種多様な感性が混ざり合うことで、想像もしなかった角度からのソリューションが生まれるんです。

組織の拡大に伴い、意識の変化はありましたか?

後藤氏:もちろんです。初期の頃は、とにかく「目の前の案件をどう終わらせるか」に必死でしたが、今は「いかにメンバーが高いモチベーションで、自分の得意分野を生かせるか」を考えるようになりました。それが結果として、1800社を超えるお取引先への安定したサービス提供、そして15期連続増収という数字につながっているのだと確信しています。また、最近ではM&Aを通じてオーディオブック制作スタジオを仲間に迎えるなど、自社のリソースだけに頼らない柔軟な拡大も進めています。今後も同じ志を持つ仲間を増やし、規模の拡大を恐れずに突き進んでいきたいですね。

創業から15期連続成長を支える「失敗を恐れない」文化

組織を率いる上で、最も大切にしていることは何ですか。

後藤氏:「人への感謝」です。15期連続で会社を伸ばすことができたのは、支えてくれたクリエイターの方々、お取引先、そして何より社内のメンバーがいたからです。社長1人が頑張っても、できることには限界があります。今ではメンバーそれぞれの考えが化学反応を起こし、そこから新しいアイデアが生まれるのをサポートするのが私の役目だと思っています。

社内では「失敗を恐れない」文化があるとお聞きしました。

後藤氏:メンバーから「こんなサービスをやりたい」という提案があれば、基本的には大歓迎です。弊社の5つの行動指針の一つに「プロフェッショナルとしての自覚を持つ」を掲げています。自覚を持った上での挑戦なら、たとえ失敗してもそれが本人の育成や会社の経験につながります。失敗を恐れて守りに入ることよりも、現状維持を危惧し、常に一歩先を狙う空気感を大切にしています。自由な発想で挑戦できる環境を提供し続けることが、組織の成長を止めない唯一の方法だと確信しています。

後藤社長にとっての「ハレの日」はいつですか?

後藤氏:会社を登記した2011年7月8日です。あの時の、希望に満ちたワクワク感は今でも忘れません。そして、今この瞬間も、空に例えるなら「快晴」です。着実に成長し、新しい仲間が増え、できることが広がっている。毎日が「ハレの日」を更新し続けているような感覚ですね。

――未来の「ハレの日」を実現するために、今後の展望を聞かせてください。

後藤氏:「日本を代表するクリエイティブテックカンパニー」として、あらゆるクリエイターに支持される存在になりたい。挑戦を繰り返し、成長し続けることで、クリエイターと社会に貢献し続けていきます。私たちはこれからも、特定の業界に捉われず、新しい価値を創造し続ける集団であり続けます。

取材を終えて 撮影小話

稲葉:後藤社長、今日はありがとうございました。後藤社長の「堅実さ」の根底にある、あの厳しい時期の経験を知ることができて、改めて尊敬の念が深まりました。後藤社長は常に新しい情報を吸収し、経営に生かそうとされていますが、その貪欲さこそが15期連続成長の秘訣ですね。
後藤氏:稲葉さん、ありがとうございます。稲葉さんには人事評価制度の構築から資産形成まで、私の知らない領域をプロの視点で支えていただいて、本当に助かっています。これからも勉強させてください。
稲葉:私の方こそです。実は出会ったばかりの頃の後藤社長は、今よりもっと「尖った」というか、常に戦っているような印象がありました。でも、最近は組織が大きくなったこともあってか、すごく穏やかで、メンバー一人ひとりの成長を心から楽しんでいるように見えます。その変化が、今のスマートゲートの温かい社風を作っているんですね。
後藤氏:そう言われると少し照れますね(笑)。でも確かに、昔は「自分がやらなきゃ」という焦りがあったかもしれません。今は、自分よりも優秀なメンバーがどんどん出てきて、彼らが自発的に動いてくれるのが一番の喜びなんです。彼らの挑戦を支えるのが、今の私の最大の仕事だと思っています。
稲葉:その「人への感謝」と「信頼」という言葉、社内の自由な活気につながっているのを肌で感じました。今後は保険業界や医療業界など、ペーパーレス化に悩むクライアント様をご紹介させてください。
後藤氏:ぜひお願いします!まさに「クリエイティブテック」の出番ですね。また面白い挑戦を報告できるよう頑張ります!