経営者を「神様」から「一人の人間」に戻す税理士・三輪典行氏が提唱する「志」の組織論
UNNAMED SERVICE 代表社員 税理士「志心」 代表講師 三輪典行氏

今回は、税理士法人UNNAMED SERVICE(東京・世田谷)代表であり、経営者塾「志心(ししん)」を主宰する三輪典行氏に取材を実施。米国でのプロバスケットボール選手への夢と挫折、そして企業再生の現場を経て辿り着いた「弱さを開示し、集合知で勝つ」という新しい組織の在り方や、50年後の未来を見据えた真のリーダー論について伺いました。
(聞き手:ハレノヒハレ 稲葉晴一 編集:内田勝治)

NBA選手への夢と挫折…「再生現場」で見た不幸な組織モデル

三輪さんはもともと、税理士を目指されていたのですか?

三輪典行氏(以下、三輪氏):いえ、全く(笑)。実は、米国でバスケットボールをやっていて、NBA(全米バスケットボール協会)を目指していました。ポジションは司令塔のポイントガード。当時から、自分が目立つよりも、チームのパフォーマンスを最大化させることに喜びを感じるタイプで、歴史上の人物でも劉備玄徳より諸葛孔明、織田信長や豊臣秀吉よりも黒田官兵衛といった「軍師」や「参謀」が大好きでした。バスケ以外であれば、経営コンサルティングをやりたいなと漠然と思っていました。

そこからなぜ税理士・コンサルタントの道に進もうと思われたのですか?

三輪氏:日本でプロバスケ選手になること自体、あまり興味はなかったのですが、試験を受けました。ドラフトまで行ったんですが結果は不合格。当時、日本バスケットボール協会とbjリーグはゴタゴタが続いていて、その不透明さを目の当たりにし、僕にそれを黙らせるほどの実力はありませんでした。悪い意味で「バカ」になりきれなかったんです。

 24歳でプロを諦めた後、プロチームのオーナーとお会いする機会がありました。役員さんが税理士さんだったんですよ。そこから税理士を目指すようになりました。ただ、税理士の資格を取得したのは39歳と遅かったですね。
実はプロバスケ選手になれなかったという挫折を、40歳過ぎまで引きずっていました。でも2年前、ロサンゼルスで経営者向けに講演をした際、「挫折は志を磨くためのものだった」と話した時にようやく抜け出すことができました。

プロバスケ選手を諦めた後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?

三輪氏:スタートは企業の「再生現場」でした。銀行への返済が止まり、経営者が「死んで保険金で返そうか」と思い詰めるほどの極限状態です。そこで気づいたのは、情報が完全にクローズだということ。経営者が一人で震えている一方で、従業員は何も知らされず「他人事」として働いている。信頼関係がない職場で人生の3分の1以上を費やすなんて、こんな不幸な組織モデルでいいのかと憤りを覚えました。「もっと人が人らしく、それぞれの人生が主人公だと言える世界を作りたい」。その想いが、今の私の原点です。

経営者塾受講者の8割が業績向上…弱さを開示する「集合知」の経営

三輪さんが代表講師を務める経営者塾「志心」とは、どのような場所ですか?

三輪氏:単に利益や資金調達の手法を教える場所ではありません。一番の特徴は、経営者に「弱さ」を開示してもらうことです。多くの経営者は「完璧でなければならない」「正解を出さなければならない」という固定観念に縛られています。
でも、一人の人間が営業も採用も資金調達も、すべて得意なわけがない。経営者を「神様」という役職から「一人の人間」に戻す。そして、「俺、これは苦手なんだよね」と弱さを伝える。そうすることで、周りのメンバーの才能が光り出し、結果として生産性が上がる。これが「志心」が提唱する集合知の経営です。

実際に、受講する経営者の業績にも変化はありますか?

三輪氏:受講者の8割が業績を向上させています。これも、私が「UNNAMED SERVICE」という税理士法人をやっているからこそだと思っています。経営者塾とクライアント同士を引き合わせるコミュニティの要素、両方を統合した唯一無二の税理士になろうと思って資格を取ったんです。私が直接担当しているところは平均で1億円ほどの営業利益、業績を上げています。これは私が税理士として財務データを正確に把握し、現実的な「情報の透明度」を担保しているからこそできる指導だと思っています。

組織において、メンバー一人ひとりの「主体性」を引き出すには何が必要だとお考えですか?

三輪氏:よく経営者は「うちの社員には当事者意識が足りない」と言いますが、それは仕組みの問題です。私は、メンバーが「自分ごと」として会社を捉えるには、大きく分けて4つのステップが必要だと確信しています。
まず大前提として、「会社のために」ではなく、会社という器を使って「どう自己実現するか」という視点を持ってもらうことです。自分の人生の目的と会社の目指す世界観が重なり、この会社にいることが自分の誇りだと思えなければ、本当の力は発揮されません。
次に必要なのが、市場や競合といった「外の世界」のリアルな情報を正しく伝えることです。中小企業を取り巻く現状や、例えば今起きている戦争が自分たちのビジネスにどう影響するのか。これらを他人事ではなく共通の課題として共有する。その上で、財務リテラシー、つまり「食えなければ続かない」という現実を数字で理解してもらうんです。資本主義というルールの中で生きている以上、この知識は器を磨くための必須科目ですから。
そして最後が最も重要ですが、自分が意思決定に関わり、実際に会社を変えられるという実感を味わってもらうことです。言われたことだけをやっているうちは、絶対に「自分の会社」にはなりません。情報がフルオープンであり、自分が説明責任を負って動ける実践の場があるからこそ、初めて主体性は育まれるんです。

100年前の管理モデルを脱却して「自分ごと」で動く仕組み作り

日本の中小企業の多くが、100年以上前の管理手法から抜け出せないのはなぜでしょうか?

三輪氏:管理と労働を切り離し、人間をマニュアルに当てはめる「文化」が深く根付いているからです。システムを入れて評価制度を作っても、それが「人を管理・裁くための道具」になっている限り、本質的な創造性は生まれません。

「志心」では、「いい・悪い」の評価ではなく、「好き・嫌い」「得意・苦手」という個人の感情を出す。そうすることで、共感が生まれ、つながりが深まります。本音で喋れない職場で、良い仕事ができるはずがないんですよ。

経営者自身が「学び」を後回しにしてしまう現状をどう見ていますか?

三輪氏:プログラマーが技術を学び、税理士が法律を学ぶように、経営者も「経営の原理原則」として経営学を学ぶべきです。実務の忙しさを理由に根っこを疎かにするから、不透明な時代に翻弄されてしまう。そこを変えるのが僕らの役割です。

社員の「個別の事情」を経営に取り入れる際、具体的にどのような対応をされていますか?

三輪氏:人生20年以上も生きていれば、浮き沈みがあって当然なんです。それがわからないで、いきなり同じ職場にぶち込まれて仲良くなれといっても本音で喋ることはできません。過去に、入社1カ月の社員がトラウマで満員電車が苦手だと聞き出したことがあります。私は即座に11時出勤を認めました。一番輝ける時間と場所はそれぞれにあります。まずは弱さを開示することこそが価値だと思っています。

「UNNAMED SERVICE」の成り立ちもユニークですね。

三輪氏:実は独立した当初、後輩が代表を務め、私は一社員として入社する形を取りました。あえて自らがトップ(代表)の座に就かないことで、初めから「権力」を持たずとも組織は設計できることを、私自身がキャリアを通じて証明しています。
「UNNAMED SERVICE(名前のつけようがないサービス)」というネーミングは、実は2018年に会社を発足する以前の2013年に生まれていました。これも再生現場での経験からです。あるお寿司屋さんを再生させるために、自社の店舗に覆面調査しに行ったり、競合店の調査をしにいったり、店長を支え、社長に財務報告をして、金融機関と交渉し、戦略を練る。とにかく、ありとあらゆることをやるんですよ(笑)。そこで「俺がやっていることは、名前のつけようがねえな」と。独立したらこの会社名にしようとずっと考えていました。

コロナ禍に資金調達支援1年無料「名前なきサービス」に込めた誠意

新型コロナウイルス禍では資金調達支援を「1年間無料」で実施されたとか。

三輪氏:採算度外視でしたね。緊急事態宣言が発令された2020年の3月段階で、資金調達に加え、コロナ対応の緊急融資制度全般、持続化給付金、家賃支援給付金などの資金調達支援を決めました。僕らが財務をやるので、経営者は社員と取引先のケアに集中してほしいという思いがありました。クライアントとは契約を超えた「同志」のような関係でありたい。吉田松陰の「至誠にして動かざるはいまだこれ有らざるなり(誠意を尽くして事にあたれば、どのようなものでも必ず動かすことができる)」という名言もあるように、真心を持って相手のためにベストを尽くせば、人は必ず動くと信じています。

AIが普及する中で、これからの経営者に求められる深みとは何でしょうか。

三輪氏:AIは解像度の高い答えを出してくれますが、人を動かすのはやはり「人」の言葉です。思考力をAIに委ねてしまう経営者に、誰もついてはいきません。自分が何を大切にし、どう生きたいのか。その「深み」こそが、これからのリーダーの絶対条件になります。
異業種の経営者たちが集まる「志心」のコミュニティは、全員が共通言語を持っているからこそ、ティーチングの時間を省いて深いコーチングができます。同じ共通言語、共通理解で議論することで、一人の頭では到達できない「集合知」が生まれます。これが驚くほど業績に直結するんです。

人生を空に例えるとしたら、どんな天気になりますでしょうか?

三輪氏:今日(取材日)はあいにくの雨模様ですが、心境は晴れ晴れとしています。例え嵐がこようとも、その先にある青空を見据えて、これからも突き進んでいきたいと思っています。

未来に向けて、どのような足跡を残していきたいですか?

三輪氏:息子が生まれた時に、50年後、100年後の未来に寄与できる経営者や組織を残したいと強く思いました。今年は米国やマレーシアでの合宿も計画しています。日本の中小企業発の新しいリーダー論を世界に広めていきたいですね。

【取材を終えて:撮影小話】
稲葉:三輪さん、今日はありがとうございました。改めてお話を聞いて、三輪さんの「軍師」としての視座の高さに圧倒されました。
三輪氏:稲葉さんは「志心」の受講生で、本当に真面目で吸収力が高く、可能性を感じていました。あと、ちょっと恥ずかしがり屋な面もありますよね(笑)。
稲葉:実は、三輪さんの教えに感銘を受け、自分の著書「大型契約が決まり続ける保険営業術」の中で一部、内容を引用してしまったんです…。それ知った三輪さんからは「だったらちゃんと中に入って発信してよ」と仰ってくれて、今は「志心」の運営に携わらせていただいています。
三輪氏:稲葉さんの保険代理店としての知見は、僕らにはない強みですからね。4月からは、志心のメソッドと「ハレノヒハレ」をコラボさせて、業界の改革を一緒に進めていきましょう。
稲葉:はい! 三輪さんのもとで学んでから、弊社の粗利も短期間で2倍以上に成長しました。この「志心」という素晴らしいコミュニティを、一人でも多くの経営者に知ってもらえるよう、私も全力で伴走させていただきます!
三輪氏:世界レベルの経営者を輩出する場所として、共に「未来の子供たちが胸を張れる世界」を残していきましょう。