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「目の前の仕事に真摯に向き合っていたら数字がついてきた」80年続く不用品回収・内装解体のプロフェッショナル(株)いちかい 代表取締役 根本武氏

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ハレ街メディアでは、未来のハレを創り出す挑戦者たちの物語を発信しています。今回は、不用品回収・買取を手掛ける株式会社いちかい(埼玉・八潮)代表取締役の根本武氏に取材を実施。会社の歴史や不用品回収現場のリアル、社員への思い、そして社長が考える「ハレノヒ」についてお話を伺いました。
(聞き手:ハレノヒハレ 大塚辰徳 編集:ライフメディア 岸のぞみ)

戦後の闇市をリヤカーで周った創業80年の不用品回収会社

まずは御社の事業内容について改めて簡単にお聞かせください。

根本武氏(以下、根本氏):関東一都三県を中心とした広い地域で不用品の回収・買取を行っています。いわゆるゴミ屋敷の片付けから遺品整理、オフィス・店舗などの不用品回収・解体作業なども手掛けています。お客様は内装工事業者や解体事業者が多く、事務機器などのオフィス家具の回収やレストラン・ホテルなどの厨房用品の回収・解体などが全体の半数以上を占めています。一般の不用品回収業者が担当できないような店舗内装の解体作業ができることが当社の大きな強みです。

いちかいは創業80年の老舗です。創業の経緯についてもお聞かせください。

根本氏:もともと私の曾祖父がリヤカーを引きながら戦後の闇市を回って生活用品や食料品などを販売する傍ら、捨てられていた不用品を拾っては人々に販売していたというのが始まりですね。祖父の代になると兄弟3人でそれぞれリサイクルショップを3店舗運営するようになりました。父は個人事業主としてリサイクルショップを引き継ぎましたが、主な収入源は父が役員を務めていた古物商リサイクルオークションでの収益。父はブランド品に強く、一般の方や業者の方から購入したものをオークションで高く売ることで生計を立てていたようです。

幼い頃の根本社長は、家業についてどのようにお感じになっていたのでしょうか。

根本氏:幼い頃、夏休みなどの長期休暇のタイミングに仕事を手伝わされることがありましたが、事業への印象はその程度で、特に強い思い入れがあったわけでありません。父親も金遣いの荒い浪費家で、いわゆる昭和の厳しい親父でしたし、気分屋でもありました。

 でもその一方で、オークション会場などで取引先の方々に会うと「根本さん、根本さん」とみんなが話しかけてくるなど、父がみんなから慕われているのがよくわかりました。ですから仕事人としての父親のことは尊敬していて、いつか父と一緒に仕事をしたいという思いがずっとありましたね。

根本社長が実際に先代と働き始めたのはいつ頃のことですか。

根本氏:父は長く個人事業主として働いていましたが、あるとき兄弟2人で共同経営している片付け専門業者の方から役員として一緒に働かないかとヘッドハンティングされたんです。私は22歳のときにその会社に入社し、父と一緒に働き始めました。

病死した父の事業を25歳で引き継いだ

尊敬していた先代と一緒に働き始めた根本社長。当時の思い出は?

根本氏:2トントラックを運転して現場に向かうんですが、とにかくいろいろな現場を回りましたね。例えば保証会社をつけて入居していた入居者が賃料を払えず保証会社も支払えなくなっていわゆる「夜逃げ」をしたような案件。様々な家具や生活用品がそのまま残されているので、それらの残置物を一つひとつ片付けました。

 ワンルームから一軒家まで毎日いろんな現場を回りますが、到着して扉を開けてみると死臭の漂う事故物件だった、なんてことも一度や二度ではありません。ご遺体そのものは既に引き取られて現場にはありませんでしたが、非常口のマークのようにご遺体のあった場所がシミになっていて、ハエやウジが湧いていることも。特殊清掃業者がサービスを開始したのはここ10年ほどのことで、当時はまだ不用品回収業者が担当していたんですよ。

 大変な現場もたくさんありましたが、尊敬している父が経営する会社だったので「こいつ使えないな」と思われるのがすごく嫌で、人の何倍も現場をこなし、誰よりも丁寧に片付けることを心がけていましたね。

現在の会社設立に至る経緯についてもお聞かせください。

根本氏:3年ほどその会社で働いた後、父と共同経営者の兄弟が喧嘩別れをしてしまったため、父が新しく立ち上げた不用品回収会社で働き始めました。ところがそのわずか1年後に父が病気で急死。事情があって会社をそのまま引き継ぐことができなかったため、新しく会社を立ち上げるか、他所で働くか決断しなければなりませんでした。

 悩みましたが一緒に働いてくれていた社員もいましたし、父親の時代からお世話になっていた得意先もありました。「できれば業務を引き継いでほしい」という声もあったため、それならば一度新たに会社を立ち上げて事業を引き継いでみようと決意。当時私はまだ25歳で、失敗しても何とかなると思いました。

 「一海(いちかい)」は母方の苗字なのですが、リサイクルオークションの会場などではそちらのほうの名前が通っていたので社名として残そうと思い、読み方が難しいので平仮名で「いちかい」と社名をつけました。2013年のことです。

徹底した現場主義を貫いたら数字がついてきた

設立13年目を迎えるいちかいですが、今に至るまでに経営の面で苦労された時期はありましたか。

根本氏:それがとてもありがたいことに設立から今まで非常に順調に売り上げが推移してきました。最初は少ない人数で回せるだけの仕事をして、取引先が増え、業務が増えてからは社員を増やしたり応援を呼んだりしながら運営してきました。

 実は父も私も経営者タイプではないんですよ。周りの経営者さんを見ているとしっかり経営計画を立てて来年度の予算を定めるなどしながら会社運営をされていますが、私たちはとにかく現場に出てきちんと仕事をするだけ。目の前の仕事に真摯に向き合っていたら数字がついてきた、という感じです。

 1週間ほど仕事がない、という時期もありましたが、そのような時期は回収してきた不用品の販売に力を入れることでしのいできたので、会社の経営自体が厳しいということはありませんでしたね。ただ、苦労やトラブルは日常茶飯事ですよ(笑)。内装解体は深夜作業になりますが、人手が足りない時は三日三晩寝ずに働いたこともあります。

 忘れられないのは1階に歯科が入っている3階建ての建物で、2~3階の内装解体を手掛けたときのことでした。実はこのとき私は現場に行けなかったので、応援で呼んだメンバーに担当してもらうことになったんです。ところが工事中に3階部分の水道管を傷つけてしまったため、1階の歯科まで水漏れが発生してしまうというトラブルが発生しました。

 結果1000万円の賠償請求となり、歯科の方に謝罪しながら保険会社とも相談して何とかお支払いをさせていただきました。こんなトラブルが日常茶飯事だったため、電話が鳴るたびに「またトラブルかな」と不安に思った時期もありました。なるべく自分が現場に行き、率先して作業することで従業員にもやり方を学んでもらったり、注意が必要なところをあらかじめ声掛けしたりするようにしています。厳しい仕事ではありますが、長く働いてくれている子も多いので、日々成長してくれていると感じます。

そんな根本社長にとって、これまでで一番の「ハレの日」はどのようなタイミングだったのでしょうか?

根本氏: 1番と言われるとあまり思い浮かばないですが、苦労した現場やクレームが多い現場などが完了した時、気持ちがすごく晴れやかになり、解放された感じになります。いつも感じていることは従業員への感謝です。私1人ではどうしてもできないことが多いですが、従業員がいてくれるおかげでうまく仕事をこなせていると思います。

 プライベートでは3人の子どもの成長を見るとうれしく思いますね。最近では真ん中の子が中学校でバレーボール部に所属していたのですが、その引退試合でがんばっている姿を見られたことが「ハレ」を感じた出来事でした。

今日(取材日)はよく晴れて気温の高い夏日となりました。今日の空は人生に例えるとどのようなものになりますか?

根本氏:忙しいときは妻にも現場に手伝いに出てもらっているんですが、妻と現場に出ていると今でも楽しいんです。妻とは中学校からの同級生で、初めて付き合った人。そのまま結婚し、いまでも一緒に仕事を手伝ってくれているので、そんな妻との楽しい気持ちを思い出させてくれる晴れ模様ですね。

未来の晴れを実現するために最も大切にしていること、そして今後の展望についてお聞かせください。

根本氏:会社としての大きな野望のようなものは特にないんですよ。手広く新しいことに挑戦したいとも思いません。目の前の仕事をしっかりこなして信頼を積み上げながら売り上げを伸ばしていきたい。そしてその利益をがんばってくれている社員のみんなに手厚く還元していけたらと思っています。

取材を終えて 撮影小話

大塚: 根本社長はずっと働き詰めでも苦労の顔が見えない超人なんですよ! 人生の中で出会った超人が3人いるんですが根本社長はその中の1人です。お父様のお話が出ていましたが、根本社長自身もコミュニティーを引き継がれていて、たくさん人脈をお持ちなんです。あと、僕も事務所の解体をお願いしたことがあるんですが、本当に作業が丁寧。真っ暗で電気もない中、2人で手早く丁寧に作業を終えるのを見て本当にすごいなと思いました。

根本氏: 大塚さんも自身のコミュニティーを持っているよね。人当たりもいいし仕事もできる。私なんかよりずっとやり手営業マン!って感じです。

大塚:ありがとうございます(笑)。あと根本社長は福利厚生を手厚くしていきたいと考えられていて、退職金のことや保証のことなど、自分のことよりも社員のために何かできないかと常に考えていらっしゃるので、僕の中では社員さんへの思いが一番強い方だと思っています。

根本氏:そんなに褒めてもジュースしか奢らないよ(笑)

大塚:いえ、大丈夫です(笑)。これからもよろしくお願いします!