ハレ街メディアでは、未来のハレを創り出す挑戦者たちの物語を発信しています。今回ご登場いただくのは、企業の広告や採用、インナーブランディングの動画を制作するhashigoya(東京・品川)代表取締役CEO(最高経営責任者)の長田幸洋氏。映像制作に興味を持ったきっかけや創業の経緯、経営者として大事にしているマインドについて話を伺いました。
(聞き手:ハレノヒハレ 代表取締役 稲葉晴一 編集:ライフメディア 尾越まり恵)

クリエイターを社内で雇用し、利益率と品質を確保
hashigoyaの事業内容について教えてください。
長田幸洋社長(以下、長田氏):法人向けの映像制作を主軸に、ブランディングやマーケティング、DX支援なども手掛けています。売り上げの約7割を占める映像制作事業では、社外向けのマーケティングや集客用の映像制作と、社内向けの従業員教育やインナーブランディング用の動画制作の2パターンがあります。全国にお客様がいて業界も幅広いのですが、中でも保険業界、観光・レジャー、運送業界の企業が多いですね。
立ち上げから長く社外向け動画を制作してきたのですが、3年ほど前から社内向け動画も手掛けるようになりました。この社内向け動画の需要が拡大しており、今では映像制作の6割が社内向けです。売り上げもこの3年で4000万円弱から1.5億円まで伸びました。
動画制作において、hashigoyaならではの強みや特徴は何でしょうか?
長田氏:一般的に、映像制作会社は営業やプロデューサーだけを社内で雇用し、ディレクターやカメラマンなどは社外のフリーランスに委託しているのですが、当社はクリエイターを社員として雇用しています。ほとんどの映像制作を内製化しており、機材から技術やスキルの要件、評価制度まで体系化しているのが特徴ですね。当社で働くとディレクションから納品まで映像制作に関わるすべての作業を経験でき、ある程度一人でこなせるようになります。
社員の給与を業界水準より高くして賞与も出していますが、それでも内製した方が利益率は高くなります。また、カメラマンもディレクターも、顧客の要件をしっかり理解して映像制作に携われるため、顧客にとってはコミュニケーションロスが少なく品質も担保できるメリットがあります。
今、力を入れて取り組んでいることは何ですか。
長田氏:今後、さらにクリエイターがより働きやすい環境を整備していきたいですね。給与などの待遇面や福利厚生、働きがいも含めて体制をしっかり作って、唯一無二の会社になりたいと思っています。
恩師の言葉をきっかけに映像の世界へ
映像の世界を目指されたきっかけは何だったのでしょうか。
長田氏:高校1年の文化祭で「映画を作りたいな」と思って、初めて映像を制作し、YouTubeに限定公開したんです。ところが、私立の中高一貫の厳しい学校だったので「前代未聞だ!」と問題になり、無期停学になってしまったんですね。尊敬していた恩師には「前例がなかっただけで、君のやったことは悪いことではない」と言ってもらいました。
ただ、その後に「もし君が作った映像が、見た人全員を感動させるものだったら、ルールを覆していたと思う。この先君が映像の世界に進むなら、そういう映像を作ってほしいし、いつかそんな作品を見てみたい」と言われたんです。その言葉を聞いた瞬間に、映像の道に進もうと決めました。

そこからどんな進路を選択されたのですか。
長田氏:高校時代、僕はずっと最下位くらいの成績だったのですが、先生のおかげで勉強する理由ができたので、猛勉強して立教大学の映像身体学科に進みました。元NHKのディレクターの先生がいたので、1年生のときから先生に頼み込んで技術を教えてもらい、先生の紹介で制作会社で働かせてもらったりもしました。たくさん勉強してコンペに出して、賞もいただきました。審査員の方から仕事をいただくようになり、後輩にアルバイト代を払いながら、大学3年のときには月90~120万円くらい稼いでいたんです。
そうしたら、翌年にすごい額の税金の通知が届いたんですよ。世の中の仕組みをまったく知らなかったのでものすごく驚き、税金対策として法人化したのが最初のきっかけです。節税がきっかけとはいえ、法人化するプロセスの中で、自分1人で制作できる映像の数には限界があるので、同じように技術を持った人を雇用して一緒に制作できれば、もっと多くのお客様からの依頼を受けられると考えるようになりました。
しかし、大学卒業後は就職されています。
長田氏:法人化して見よう見まねで請求書を作ったりしていたのですが、一般的なビジネスの知識がまったくなかったんですよ。このままでは人を雇用できないなと思いました。雇われる人の気持ちを理解したいという思いもあって、株は僕が持ったまま会社を友人に任せ、広告代理店に入社しました。9カ月間働いてビジネススキルが身に着いたので退職しhashigoyaの代表に戻ったところ、なんと会社を任せていた友人が会社のお金をプライベートで使い込んでいたんです。
会社の口座に800万円くらいあったはずが、戻ったら45万円しかなかった。衝撃でしたね。彼を信じたことをかなり後悔しましたが、財布とクレジットカードを預けた自分が悪かったんだと思い直しました。最初の1年は大手芸能プロダクションのベンチャー育成プログラムに参加できたので、オフィスなどの固定費を最大限に抑えながら再スタートを切りました。
心に傷を負っていない経営者はいない
創業からこれまでで、一番大変だったことは?
長田氏:友人の裏切りからスタートして、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)が起こり、直近では取締役がトラブルを起こして退任……これまで大変じゃなかったことがないですね(苦笑)。常に何かに追われ、何かを抱え、やっと少し落ち着いたと思ったら、また問題が起こる。経営者になってから、何も考えずに土日を過ごしたことがありません。リスタートボタンがあっても絶対に押さないですね。もう、同じ経験はしたくないですから。
それだけ壁にぶつかれば、乗り越える精神力は身に着いていくものですか?
長田氏:まったく身に着かないですね。ただ、鈍感になるスキルを上げていくしかないんだと思います。何度経験しても、慣れるとか、傷つかなくなるということはありません。でも、きっと経営者はみんな同じです。どれだけ冷徹で周囲から怖い人だと言われていても、傷ついていない経営者なんて1人もいないと思います。そんな中でも、きちんとご飯を食べ、夜眠るための工夫はしてきました。身体の健康を崩さなければ、心がボロボロでも乗り切れると思っています。
ボロボロになりながらも、経営者であり続けている。その原動力は何でしょうか?
長田氏:なんで経営を続けているんでしょうね。正直、自分でもよくわかりません。映像制作が好きなら、個人でもできますから。
ただ、何もないとつまらない。社会人になってから、ゆっくり過ごした時期も多少ありましたが、面白くはなかったんですよね。経営者という生き方に自分が何かを見いだしているとしたら、それは刺激的な楽しさかもしれません。でも、会社を大きくするために経営者がゲームのように刺激的に経営を楽しむと、おそらく会社は崩壊してしまいます。これからの僕のテーマなのですが、刺激から生きている実感を得るのはやめよう、と思っています。もっと本質的な豊かさを追求したい。
周囲を見ても、20代や30代の経営者は人間として未熟なまま経営に携わり、急スピードで成長を目指した結果、組織を崩壊させてしまうパターンが多い気がします。過度な事業成長が本当に自分や従業員の豊かさにつながっているかどうかを見つめ直す必要があるなと思っています。経営者が人間力を高めていかなくては、会社経営のあるべき姿は描けないですよね。
「明日はきっと良くなる」と信じて、今日1日に集中する
これまでの人生で一番のハレの日は?
長田氏:娘が生まれた日ですね。実は、早産で超未熟児の600gで生まれてきたんです。出産当日は実際には雨だったし、心が晴天だったわけではなく、不安もたくさんありました。でも、いま「ハレの日は?」と聞かれてパッと思い浮かんだのが、その日でした。
出産後、NICU(新生児集中治療室)に入る前に一瞬だけ娘を見ることができたのですが、小さいけれどちゃんと人間の形をしていて、素直に「めちゃくちゃかわいい」と思いました。あの瞬間、人生で一番晴れていましたね。地獄のような世界の中で、1輪の花を見つけたような心境です。この花を大切にしよう、と心から思いました。

未来のハレのために、意識していることはありますか?
長田氏:娘の早産や取締役の退任など、今年は特に公私ともに大変なことが続きましたが、少しずつまたいい方向に向かえているなと感じています。思った通りにはならないけれど、自分が行動した通りにはなるんですよね。そこだけは信じて進もう、と思っています。「今日も1日、きちんと動けた」と実感できるように行動すると、「明日はきっと良くなる」と信じられるんです。そんなふうに毎日を過ごしていると、晴れの日がきたときに、心から感謝できるようになりました。
取材を終えて
稲葉:長田さん、今日はまったく飾らず、本音で話してくださって、僕自身も教わる部分がたくさんありました。
長田:こちらこそ、今回話してみて、改めて自分の中で言語化できた部分も多くありました。1つもいいことを言おうと思って話していないのですが、結果的に若い時の自分が見たらカッコいい大人だと思ってもらえる自分になれているかもしれないと思いましたね。
稲葉:いやぁ、お互い、確実に成長しましたよね! 今日はそれを実感できました。
長田:たくさん傷ついた分、自分の言葉に責任を持てるようになれた気がします。それに気付く機会になりました。
稲葉:欲求レベルの成長こそが、おそらく本質的な成長であり、欲求レベルが高くなると、人間的にもより成長できるんでしょうね。長田さんの話を聞いて、そんなことも考えました。今日はありがとうございました!
